2006年5月22日

肥後物産通信5月号 森田 洋(農学博士) レポートより

【産地状況】
生産農家では、外仕事(イ草の網入れ作業・施肥・稲の種まき)と並行
して畳表製織が行われています。
農協市場出品は、1日平均7千枚前後と少なく、最盛期と比べますと半分
以下の出品状況です。出品数低下には、農繁期・雨天といった要因と、
需要の低迷から希望する単価がつかないための、生産意欲の低下が感じ
られます。

品質では、早刈草が大半を占め、良質な品物は非常に少ない状況です。
昨年は長イの収穫から、良質な表が期待されましたが、灯芯の充実が伴
わず、柔らかい草質であったり、ヤケ(テレ)のある表が多いようです。
今後、6月末より新草の収穫が始まり、畳表の製織は休止する時期とな
ります。

生育状況
・在来種では先刈り後の着花が目立つようです。
・5月中旬より発生する新芽が一番の長イとなります。

【森田 洋(農学博士)より情報提供】
・PDF形式では下記で掲載しています
 森田 洋(農学博士)レポート
・下記は写真などが除かれたテキスト形式ですので正式には
 上記を参照してください。
--------<以下 森田氏レポートよりテキスト形式で掲載>--------

イグサは敷いても,食べても,浸かっても健康な天然素材です
     北九州市立大学国際環境工学部助教授
            森田  洋(農学博士)

1.イグサとは・・・
 畳の原材料として約1,100年以上前より用いられているイグサは Juncus (ジュ
ンカス)属に分類される多年草の宿根性草本であります。Juncus はラテン語で
「結ぶ」という意味があるように,Juncus 属の植物は硬くて弾力性に富んでい
ます。原産地はインドであり,シルクロードを経て朝鮮半島に入り,日本に伝
わったといわれています。日本では北海道から沖縄まで全土にわたり自生してお
り,イグサの茎中の芯は油をよく吸い上げる性質をもつために,日本では古来よ
り,行灯の灯心として用いられていました。このためイグサのことを, 燈心草
(トウシンソウ)とも呼ばれています。

2.イグサは昔、薬草であった!
 イグサは日本最古の本草書である本草和名(918年,深江輔仁)にも記載さ
れ,日本最古の医書である医心方(984年,丹波康頼)では薬草としての記述が
あります。更に江戸時代に編纂された百科辞典である和漢三才図会 (1712年,寺
島良安)や薬草が記載されている本草綱目啓蒙(1803年,小野蘭山)において
も,イグサの薬草としての歴史を紐解くことができます。和漢三才図会による
と,イグサを細かくすりおろして灯心部分だけを取り出し,これを煎じて飲むこ
とにより感染による炎症を抑え,水腫改善に効果があるとの記述があります。ま
た焼いて灰にしたものを飲用することで,喉の疾患を和らげるとの記述もありま
す。江戸幕府の医療施設であった小石川養生所(現小石川植物園)にもイグサが
標本植物として栽培されており,このような事実をあわせても江戸時代ではイグサ
を薬草として使用していたことが示唆されます。

             和漢三才図会(1712年,寺島良安)

3.イグサには抗菌作用があります!
 イグサは腸管出血性大腸菌O157,サルモネラ菌,黄色ブドウ球菌などの食中毒
細菌,バチルス菌,ミクロコッカス菌などの腐敗細菌に対して抗菌作用のあるこ
とが明らかとなっています(2002年に防菌防黴学会誌で発表)。 このような事実
からも畳は天然の抗菌素材といえます。最近の研究では肺炎の原因となるレジオ
ネラ菌に対しても抗菌作用が認められました。このような成果から,八代市内の
宿泊施設ではイグサを細かく砕いて袋詰めにし,浴槽中に浮かべることで「いぐ
さ風呂」の運用も始まっています。お風呂にイグサを入れると、肌がスベスベす
る効果もあり,イグサの畳以外での利用も進んでいます。また古い文献にはイグ
サが炎症,切り傷,打撲の改善にも寄与するとも書かれています。

                   (出典:北九州市立大学森田研究室)


4.イグサは足の臭いが軽減する効果も期待されています!
 足の臭いの原因には大きく2つあるといわれています。1つは汗腺・皮脂腺か
ら発するアンモニア。そしてもう1つが足に付着している微生物群の増殖で発生
する腐敗臭であります。私たちの大学では足から,この微生物を取り出 し,わず
か2%のイグサの抽出液を加えたところ,微生物群の増殖を抑える作用について発
見しました。まだ詳細な検討は今後の課題ですが,イグサは足の微生物に対して
も抗菌効果が認められたことから,畳で足の臭いも軽減できるのではと現在研究
に取り組んでいます。


(イグサの足臭微生物群に対する抗菌作用:左はイグサ2%添加のもの,右はイグ
サ無添加のもの。写真右の白い部分が微生物。イグサを添加したものは抗菌作用
を有していたため微生物が生えていないことがわかる。)           
        (出典:北九州市立大学森田研究室)


5.イグサのスポンジ構造は様々な有害物質を吸着します!
 イグサの茎断面図を電子顕微鏡(SEM)により観察したものを下に示しました。
イグサが他の植物に比べて,特徴的である部分は髄部の構造であり ます。イグサ
の髄部は白色多孔の弾力性に富む星状細胞からなる海綿組織が多数存在して
います。これが灯心といわれる部分であります。このような「スポンジ」のよう
にふんわりしたイグサの中心構造が畳に弾力性をもたらしています。
 またイグサはパルプやウールに比べて,二酸化窒素やシックハウスの原因とな
るホルムアルデヒドの吸着能に優れています。例えばコップにタバコの煙を入れ
て,片方のコップにはイグサを入れて,もう片方のコップにはイグサを入れずに
しばらく置くと,イグサを入れたコップのタバコ臭は殆どなくなります。更にイ
グサを粉末にして,烏龍茶や焼酎に入れることで不純物質を取り除き, 飲みやす
くなるという報告もあります。これらは全てイグサの「スポンジ構造」 によるも
のです。
 私たちの環境には様々な有害物質がありますが,畳はこれらの物質を 取り除い
てくれるすばらしい効果があるのです。
 また,国産イグサと中国産イグサの写真を比較したところ,中国産イグサの表
皮は非常に壊れやすいことが写真を見てもわかると思います。中国産は国産に比
べて安価ですが,丈夫で長持ちするという点では,国産のほうが優れているのか
も知れません。


    国産イグサの断面写真   中国産イグサの断面写真
              (出典:北九州市立大学森田研究室)

6.イグサのリラックス効果をもたらす成分はフィトン,バニリン!
 畳の一番の効果といえば,リラックス効果かも知れません。畳の部屋にいると
落ち着くという声を多く聞きます。森林浴が気持ち良いように,緑がいっぱいの
作物であるイグサにも同じ効果が期待されます。つまり「室内で森林浴」気分が
味わえるということです。この森林浴の際に,たくさん空気中に放出されるのが
フィトンという物質です。またそれだけでしたら,室内に観葉植物を置くことで
も代用できますが,実は特徴的な成分がイグサには含まれています。それがバニ
リンです。バニリンという言葉は馴染みがないかも知れませんが,バニラエッセ
ンスといえばわかるでしょうか。お菓子を作るときなどに数滴入れるものです。
このバニリンという成分がイグサのリラックス効果をもたらす一つの成分となっ
ています。

7.イグサは健康食品としても注目されています!
 最近では,イグサは畳だけでなく,食用としての利用も積極的に進められてい
ます。先にも述べたように,イグサは薬草として江戸時代あたりまでは用いられ
ていたものですから,それを食用に利用しても不思議な話ではありません。
 イグサは約63%が食物繊維で,ミネラルたっぷりの作物です。 この食物繊維の
量は他の野菜類と比べても非常に高い値です。


8.イグサを食べると便通・ウエストの減少傾向も認められます!
九州国際大学付属高校女子部(北九州市)の学生さんたちに協力してもらって,
イグサの摂取による排便回数、身体計測、血液検査の影響について調査を行ない
ました。朝昼晩の食後に1.5 gずつ(4.5 g/day)イグサを摂取してもらい,2週間
続けました。その結果,排便回数は平均0.7回から1.5回に増加し,平均で1日1回
を下回っていた被験者の排便回数が、イグサの摂取により平均で1日1回を超える
ようになりました。また,ウエストは被験者の殆どで減少が見ら れ,平均4.6 cm
の減少でした。便通の改善が腸内滞留時間を短くして,ウエストが減少している
ものと考えられます。これらの成果は健康・栄養食品研究という学術誌で2006年
に発表しました。


 イグサは「敷いても健康,食べても健康,浸かっても健康」な農作物でありま
す。是非皆さんも1000年以上の歴史をもつイグサをもう一度見直し,日本を代表
する農作物として愛していってほしいと切に願っています。
--------------------------<以上 森田氏レポートより >--------------------------


この度は森田助教授より、大変貴重な資料をご提供頂きました。
この資料をもとに、天然素材である「いぐさ」の機能、また畳表の素晴らしさを
一般消費者の皆様へお伝え頂ければと思います。

投稿者松永:2006年5月22日 09:26

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2006年5月21日

生育状況2006年5月22日

生育状況(手植え)5月22日撮影
huukei6-5-22-c.jpg huukei6-5-22-d.jpg
生育状況(機械植え)5月22日撮影
huukei6-5-22-a.jpg huukei6-5-22-b.jpg
ひのみどり
在来種
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投稿者higo:2006年5月21日 18:17